
- 作者:Hamilton, James D.
- 発売日: 1994/01/11
- メディア: ハードカバー
- Time Series Analysis: ノート5章 最尤推定(その2) - クッキーの日記
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- Time Series Analysis: ノート2章(その2) - クッキーの日記
- Time Series Analysis: ノート2章(その1) - クッキーの日記

10章と11章は多変量時系列への拡張みたいだね。例えば「毎年のGNP」と「毎年の国債の金利」を束ねたら多変量時系列になるよね。目次をみるに、10章では単変量時系列のときと同様に改めて多変量時系列のモデルを導入して収束性などの性質を議論して、11章で実際にモデルを使って推定していくのかな。10章冒頭に章の構成について簡単な説明があるね。以下の内容をやっていくみたい。
- 10.1節 ベクトル自己回帰過程の導入
- 10.2節 ベクトル過程の自己共分散と収束
- 10.3節 ベクトル過程の自己共分散生成関数(autocovariance-generating function)
- この節は 10.4 節の準備になるみたいだね。
- 10.4節 ベクトル過程のスペクトル
- 10.5節 ベクトル過程の標本平均

はあ…ともかく10章は多変量時系列の導入であって、この章で学んだことを後の章でも利用するのですね? それでその命題 7.5 って何でしたっけ…188ページの以下ですか。
これは以下の通常版の大数の弱法則(183ページ)を弱定常過程版にしたものでしたね。標本サイズを大きくしたときに真のパラメータに確率収束するような推定量を一致推定量とよびますから、これらは「標本平均は母平均の一致推定量である」といっているに他ならないのですね。…それで、多変量時系列版ではどうなるのかを先に覗いてみましょう。10.5節の279ページの最下部ですね。以下のは
に成分ごとに2次平均収束する。
は
に成分ごとに確率収束する。

何って、標本平均がどんな性質をもっているのか押さえておかないと、それをつかった推定や検定がどのような性質をもつのかわからないからね? 後の章で扱うのかと思ったけど、10.5節の続きにも色々な推定量が紹介されているからそれをみればわかるんじゃないかな。…ともかく10.1節の内容に入っていこう。早速257ページで p 次のベクトル自己回帰過程 VAR(p) を以下のように定義しているね。

えっと、自己回帰過程 AR(p) では係数 はスカラーでしたよね。それがいまや行列になったのですね。…しかし、その行列の各成分は何を意味するのでしょうか。その VAR(p) の第1成分をかき下してみましょう。ここで行列
の
行
列の成分を
とかき、ベクトル
の
番目の成分を
とかきます(ベクトルの添え字をテキストと逆にしたので注意してください)。

そうだね。あと もいまやホワイトノイズからベクトルホワイトノイズになっているからね。つまり、
は確率ベクトルであって、任意の
で平均ベクトルが
であって、自己共分散行列
は
のときのみ
正定値行列
であって、
のときは零行列だ。ちなみに沖本本76ページの記述だけど「
は対角行列である必要はない」よ。例えば、日々の気温とアイスクリームの売り上げを2変量時系列とみなして VAR(p) でモデリングするとしたら、
はきっと正の非対角成分をもつんじゃないかな。だって、ある日に偶発的に気温が高くなったとしたら、その日はアイスクリームも想定より売れそうだもんね。そこは相関があっていい。でも、ある日に偶発的に気温が高くなったのがその次の日以降の気温/アイスクリームの売り上げに影響するのは駄目。
のときは零行列だから。日付をまたいだ影響は係数行列
で表現しないといけない。

なるほど。異なる日のノイズどうしは無相関だが同じ日のノイズの成分どうしは相関があってもいいんですね。VAR(p) がどのようなモデルなのかは理解した気がします。…しかし、AR(p) がそうであったように VAR(p) も に何か条件を課さないと定常にはならないのですよね? 復習すると、過程が(弱)定常であることの定義は以下でした。平均が時刻によらず、自己共分散も時刻によらず時間差だけに依存するということですね。
- 方程式
の解がすべて単位円より内側にある。
- 方程式
の解がすべて単位円より外側にある。
…単変量の AR(p) のときはこうでしたが、多変量の VAR(p) になると定常条件はどうなるのでしょうか?

先に多変量時系列の場合の弱定常性の定義を一応かいておくよ。単変量のときと同様だけど。

またしてもベクトルに束ねるのですか。…いえでも、今回は元々ベクトルであるのをさらにベクトルに束ねるということになりますね?? をきちんとかき下してみましょう。この
は
行列なのですね…。

そうだね。 を繰り返し適用すれば、

差支えはありませんが、それが何ですか?

いまベクトルホワイトノイズは だけど、
というように変換されたベクトルホワイトノイズで考えてもいいってことみたい。特に、いま
の分散共分散行列は
だけど、
を対角化
するような
を選んでベクトルホワイトノイズを
と変換すれば、
の成分どうしを無相関にできる。

でもその場合 Vector MA(∞) は となっちゃって
の項に係数行列がかかっちゃうから、それを許容しないなら成分ごとに無相関にはできないんだけどね。というか Vector MA(∞) の定義がすぐ後に出てくる式 10.2.3 だと思うんだけど、
に係数行列はかかっていないから、ノイズを変換しちゃうとやっぱり厳密には Vector MA(∞) ではないね。
続く 10.2 節は、まずベクトル過程の自己共分散行列の定義かな。つまり、定常ベクトル過程 の
次の自己共分散行列は
だ。単変量のときの自己共分散と似ているね。ただ注意してほしいのは、
と
が同じになるとは限らない。成り立つのは
になる。

えっ、何故そのような違いが。

もはや積が交換しないしね。 と
って一般に等しくないよね。

ああ確かに… の1行目は「
と
」との共分散ですが、
の1行目は「
と
」との共分散ですから、意味が違いますね…。