雑記: 1の分割の話

お気付きの点がありましたらご指摘いただけますと幸いです。全体的に参考文献 3. がないと(あっても)意味がわかりません。
参考文献

  1. 1の分割 - Wikipedia
  2. パラコンパクト空間 - Wikipedia
  3. 多様体の基礎 (基礎数学) | 松本 幸夫 |本 | 通販 | Amazon

※ キャラクターは架空のものです。
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「1の分割」というものがあるらしいんですが…。

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導入が雑すぎる…。

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そういわれても…じゃあ真面目に説明しますね。


ベイズ統計の理論と方法の4章では、真の分布 q(x) と確率モデル p(x|w) の関係に(「相対的に有限な分散をもつ」ということ以外は)何も仮定がない場合を扱うんですが、平均誤差関数を標準形にするために、パラメータを適当な多様体上の局所座標に変換してしまうみたいなんです。こうして得た「パラメータ改」が [0, 1]^d の有限和でかけるものとしてよいとするのに、「1の分割」なるものが存在するという定理を利用するようなんですが(厳密には「1の分割」そのものではなく同様の手続きということなんですが)…。
…という導入であればモチベーションがわかりやすいでしょうか?

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わかりやすくはない…。

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どうしろと…。

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ともかく、定理の主張はつかめたの?

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はい。調べたのですが、「1の分割」というのはある位相空間に対して指定の条件を満たす関数族(関数の集合)のことのようですね。

定義.1の分割
\mathcal{M}位相空間とする.\{\varphi_\alpha(p)\}_{\alpha \in A}\varphi_\alpha: \mathcal{M} \to [0, 1] であるような連続関数の集合とする.\{\varphi_\alpha(p)\}_{\alpha \in A} が任意の  p \in \mathcal{M} について以下の2つの条件を満たすとき,\{\varphi_\alpha(p)\}_{\alpha \in A}\mathcal{M} の1の分割という.
  1. p を元として含むある開集合 V が存在して,\{\varphi_\alpha(p)\}_{\alpha \in A} から任意の p \in V\varphi_\alpha(p)=0 になる元を除くと,有限集合になる( \{\varphi_\alpha(p)\}_{\alpha \in A} のうち V 内のどこかで 0 より大きい値をとるようなものは有限個である).
  2.  \sum_{\alpha \in A} \varphi_\alpha(p) = 1 である.
特に,\mathcal{M}開被覆  \{U_\alpha\}_{\alpha \in A} に対して,\varphi_\alpha(p) = 0, \, p \notin U_\alpha であるような1の分割 \{\varphi_\alpha(p)\}_{\alpha \in A}開被覆  \{U_\alpha\}_{\alpha \in A} に従属する1の分割という.
関数族の元は無限にあっても構わないようですが、位相空間内の各点の周りだけに注目したときは有限個を除いてゼロでなければならないようですね。また、位相空間の任意の点で関数族の値の和は1でなければなりません…関数族が1を分け合うことから「1の分割」と名付けられたのでしょうか。また、位相空間開被覆―開集合族であって、和集合がその位相空間を覆いつくすものですね―及び開被覆と同じ添え字をもつ1の分割があるとき、1の分割の各元が同じ添え字の開集合の外では常にゼロであるならば、その1の分割はその開被覆に従属するというようです。それで、ベイズ本の文脈では、開被覆の方が先に決まっていて、それに従属する1の分割がほしいはずなんです。しかし、一般の位相空間では任意の開被覆に1の分割が存在するわけではありません。調べたところによると、「ハウスドルフ性」をもつ位相空間が「パラコンパクト性」をもつとき、またそのときに限り、その位相空間は任意の開被覆に従属な1の分割をもつそうです。
定理.1の分割の存在
\mathcal{M}ハウスドルフ空間とする.\mathcal{M} がパラコンパクトであることと,\mathcal{M} の任意の開被覆が従属な1の分割をもつことは同値である.
このことはウィキペディアパラコンパクト空間に証明がのっているんですが、ちょっと日本語と英語が混ざったルー大柴状態で読みづらく…。

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いや、いうほど混ざってもないしルー大柴は「局所有限開被覆」とかいわないと思う…。そもそも英語版を参照すればいいんじゃ…でも、この証明は別の補題を利用していて追いかけづらいのかな。難しかったらいきなりパラコンパクトハウスドルフ空間における証明を目指すんじゃなくて、証明しやすい場合で証明すればいいんじゃない? 以下の本の186ページに、まずコンパクトな微分可能多様体における「1の"2"分割」の存在の証明があるよ。その後190ページにσコンパクトな微分可能多様体の任意の開被覆の細分に対する1の分割の存在の証明、198ページにはσコンパクトな微分可能多様体の任意の有限開被覆に従属する1の分割の存在の証明があるね。


多様体の基礎 (基礎数学)

多様体の基礎 (基礎数学)

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え、えっと、「パラコンパクト性」の他に「コンパクト性」「σコンパクト性」というのもあるのですか? ご兄弟がいらっしゃったのですね…。あと、「1の分割」は位相空間に対する概念ではなかったのですか? 位相空間ではなくて多様体なんですか?

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いや、多様体ってハウスドルフ性(任意の異なる2つの元に対してそれぞれを元として含む共通部分のない開集合がとれるという性質)と地図帳をもってる位相空間のことだからね(注: 単に多様体といったときの定義は文献によります)。

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私は地理選択ではないので地図帳はもっていませんね。

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位相空間開被覆  \{U_\alpha\}_{\alpha \in A} があって、それぞれの  U_\alpha から \mathbb{R}^m の開集合への同相写像  \varphi_\alpha があれば、 \{ (U_\alpha, \varphi_\alpha) \}_{\alpha \in A} は地図帳(アトラス; m 次元座標近傍系)だね。この地図帳があれば、位相空間の任意の点に対してどこかの \alpha ページに m 次元ベクトルの住所がかいてある。

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なるほど…でも、その点で開被覆  U_{\alpha_0} , \, U_{\alpha_1} が重なっているような点だと、 \alpha_0 ページと \alpha_1 ページに異なる住所がかいてあるようなことになりませんか?

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 \alpha_0 ページで住所が m 次元ベクトル x_0 であるような点は、 \alpha_1 ページでの住所に直すと  \varphi_{\alpha_1}  \circ \varphi_{\alpha_0}^{-1}(x_0) だね。もっとも、U_{\alpha_0}U_{\alpha_1} の共通部分に属する点については、ということだけどね。この写像  \varphi_{\alpha_1}  \circ \varphi_{\alpha_0}^{-1} を座標変換といって、任意の「重なりがあるページ」間の座標変換が  C^r 級なら、そんな地図帳をもっている多様体m 次元 C^r微分可能多様体C^r多様体)というよ。

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あるページにおける住所表示から別のページにおける住所表示への変換が滑らかなら C^r多様体ということでしょうか。確かに、地図帳のあるページにあった公園が、別のページでは2つに引き裂かれていたら嫌かもしれないですね。そういうことがない地図帳ということですね。

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まあこの「地図帳が C^r 級である」というのはこれを仮定しないと1の分割ができないわけじゃないはずなんだけど(実際、一般の1の分割の存在定理は多様体を仮定してなかった=地図帳を仮定してなかったしね)、仮定するのが証明しやすいんだと思う。あ、あと 186 ページの証明では地図帳が  C^r 級であることの他に、位相空間自体に「コンパクト性」も要るね。任意の開被覆が有限部分開被覆をもつ(開被覆の有限個の部分集合だけで位相空間を覆いつくせる)という性質だね。

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「コンパクト性」ですか…よくわかりませんね。だから何といった感じなんですが。1の分割をするのになぜそんな性質が必要なんです?

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位相空間をコンパクト集合で覆いたいからかな。コンパクト性がないとそれが保証されない。1の分割って各点で有限個の関数さんたちに1を分け合ってほしいんだよね。逆にいうと、ある点でどの関数さんも分け前をもらっていってくれなかったら(どの関数の値もゼロだったら)困るよね。だから、位相空間をコンパクト集合で覆って、関数さんたちに「担当するコンパクト集合内では必ず正の値をとってね」って指示したいんだよね。まあ詳しくはおいおいかな。


具体的に、186 ページにある1の分割の最初の一歩はこうだね。
定理.コンパクト微分可能多様体を覆う2つの開集合に従属する1の分割
\mathcal{M} をコンパクト  C^r多様体とし,開集合 U, V \subset \mathcal{M}U \cap V = \mathcal{M} を満たすものとする.このとき,以下の3つの条件を満たす \mathcal{M} 上の  C^r 級関数 f: \mathcal{M} \to \mathbb{R}g: \mathcal{M} \to \mathbb{R} が存在する.
  1.  0 \leqq f \leqq 1 0 \leqq g \leqq 1
  2.  {\rm supp}(f) \subset U {\rm supp}(g) \subset V
  3.  f + g \equiv 1

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はあ…ん? 副部長、誤植がありますよ。{\rm supp} じゃなくて {\rm sup} です。

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それは {\rm supp} で合ってるよ。 {\rm supp}(f) \equiv {\rm cl} \{q \in \mathcal{M} \, | \, f(q) \neq 0 \} で、日本語でいうとサポートとか台だね。関数の値がゼロでない点の集合の閉包のことだよ。てか {\rm sup} じゃ意味通んないでしょ。

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なるほど。しかし、「このような関数たちが存在する」ということの証明はどうやるのでしょう? やり方が思い付きません…。

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実際に構成できるんだよ。上の定理の証明の流れはこうだね。

  1.  \mathcal{M} のコンパクト部分集合 K, \, L であって  K \subset U, \, L \subset V かつ  K \cup L = \mathcal{M} となるものが存在する(これにコンパクト性が必要)。
  2.  \mathcal{M} の任意の点とその開近傍 p, \, U に対して、次のような  C^r 級関数 \varphi が存在する;U に包含されるある開近傍の閉包 {\rm cl} W 内では1をとり、 U \setminus {\rm cl} W では0以上1未満の値をとり、 \mathcal{M} \setminus U では0をとる(証明は、\varphi を実際につくることによる)。
  3. 1. の  K の各点  p に対して、p, \, U に 2. を適用すると  \varphi_p, \, W_p をとれる。また、K はコンパクトなので有限個の W_p で覆うことができる。この有限個に対応する  \varphi_p を足し上げたものを  h_K とする。1. の L に対しても同様に h_L を得る。f = h_K / (h_K + h_L), \, g = h_L / (h_K + h_L) が題意を満たす。

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流れだけかかれても…。

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証明かくのしんどいからね。

つづかない