CMA2次試験ノート(H26午前)

過去問メモ。カッコ内のサブタイトルは適当。
H27午前: CMA2次試験ノート(H27午前)
H27午後: CMA2次試験ノート(H27午後)
H26午前: CMA2次試験ノート(H26午前)
H26午後: CMA2次試験ノート(H26午後)
H25午前: CMA2次試験ノート(H25午前)
H25午後: CMA2次試験ノート(H25午後)

第1~3問(職業行為基準)

職業倫理の問題。改めて要点のメモ(網羅的ではない)。

基準3 合理的で十分な
情報提供
合理的で十分な根拠をもって情報提供すること。
重要な事実を伝えること。
投資成果を保証する表現をしないこと。
基準4 適合性の原則 お客様の状況と目的を最大限に考慮すること。
投資スタイルを開示すること。
基準5 不実表示の禁止 嘘や騙しは駄目。成果の提示方法はGIPS基準を推奨。
基準6 信任義務
(忠実義務
+注意義務)
お客様の利益を最優先すること(忠実義務)。
専門家としての注意を尽くすこと(注意義務)。
基準7 利益相反の防止 原則、投資推奨する証券を実質的保有しては駄目。
(短期売買を目的とせず、投資推奨と整合性がある
場合はこの限りでないが、お客様への開示は必要。)
基準8 未公開情報の
利用の禁止
未公開情報を漏らしたり利用したら駄目。
基準9 その他 すべてのお客様を公平に取り扱うこと。
検定会員の称号の使用は良識的に。

  • 問2で川上さんがデリバティブ部分のリスクを解明しないまま今井社長にファンドを推奨したことがどの基準に抵触しているかについて、解答例では、基準5-2「投資管理の成果を公正に提示するために努力しなければならない」、基準6-2「専門家として注意を尽くさなければならない」としているけど、もっと直接に基準3-1「合理的かつ十分な根拠をもつこと」だと思った。ただ、川上さんがZ証券内で当該ファンドの責任者ということを考えると「リスクを把握せず推奨すべきでない」というよりは「立場上リスクを把握しているべきなのに仕事していない」となるのかな。
  • 基準6の忠実義務と注意義務について、「忠実義務には反していないが、注意義務に反する」という状態はありうると思うんだけど(自己や第三者の利益を優先するつもりはなかったけど注意不足だった、という場合)、忠実義務に違反している場合はもう注意義務云々ではない気がする。「忠実義務にも注意義務にも反する」って違和感がある。問3の坂本さんは自己や第三者の利益を優先する気満々なので、「基準6-1に反している」のであって「基準6-2に反している」かどうかについてはそれ以前の問題というか。どうでもいいんだけど。
第4問(事業投資や資金調達の判断)

加重平均資本コスト関連の問題。

  •  t 期にフリーキャッシュフロー  C_t を生み出すものの現在価値は、そのものに対する要求収益率  R_E を用いて、
     \displaystyle PV = \sum_{t=1}^{\infty}\frac{C_t}{(1+R_E)^t}
    なので、特に  C_t \equiv C のときは、 PV=C/R_E
  • 借入金利  R_D D だけ借入を行うと、毎年  D R_D T の節税効果があり( T法人税率)、節税効果の割引率を  R_D とすると節税効果の現在価値は  DT になる。→ 節税効果により企業価値 DT だけ増大する。
    • このとき加重平均資本コスト  R_W は、借入前の企業価値 PV=C/R_E とすると、借入前後でフリーキャッシュフローは変わらないので(変わるのは要求収益率)、企業価値と要求収益率の積が保存され、
       PV R_E = (PV + DT) R_W \; \Rightarrow \; \displaystyle R_W = \frac{PV}{PV + DT}R_E = \frac{C}{PV + DT}
      あるいは単にフリーキャッシュフロー  C を生み出すものの価値が  PV + DT であるときに期待されている収益率はいくらかと考えれば直接右端の形になる。
    • また、借入後の自己資本コスト  R_E' は、
       \displaystyle R_W = \frac{PV + DT - D}{PV+DT} R_E' + \frac{D}{PV+DT}R_D(1-T)
       R_E' について解けばよい。
    • 通常、法人税がある場合で借入によるコスト増大がない場合、借入をすればするほど企業価値が増大し、加重平均資本コスト  R_W は低くなり、借入後の自己資本コスト  R_E' は高くなる。
      • ただし、現実には借入比率が大きくなるほど倒産リスクの高まりなどでコスト増大があり、企業価値はある負債比率から減少に転じ、加重平均資本コストもある負債比率で増大に転じ、自己資本コストはより急速に高くなる。
    • 新規に借入する場合、まず節税効果があって → 節税効果を加味した企業価値があって → その企業価値のうち負債でない部分が自己資本、と考えればよさそうだけど(この問題の場合は)、順番を間違えると総資本・自己資本・負債の認識を間違えそうなので注意。
  • 公募増資を契機に株価が下落傾向になる現象を情報の非対称性の観点から解釈すると、経営者は自社株が市場で割高なときに公募増資をするだろうから、ということらしい。
第5問(財務諸表と財務戦略)

財務諸表の読解問題。

  • 2006年度~2012年度のA社の売上高営業利益率向上要因を題意どおり国内/国外に分けて推測すると、
    • 国内: 利益率の高い高齢者用おむつの売上高が伸びている。拡大している市場で利益をあげられたといえる。
    • 国外: こちらも、2006年にはなかった、利益率の高い高齢者用おむつの売上が貢献している。
  • ペット用品部門の売上高営業利益率の低下要因は、2010年度にB社を買収して以降、のれん償却費が発生している。
  • 法人税負担率の低下要因は、営業利益に占める海外営業利益比率の拡大。
  • 固定資産増加の要因は、
    • B社の買収に伴って無形固定資産にのれんが計上されたこと。
    • アジアでの有形固定資産投資を拡大していること(現地生産比率拡大のための投資と考えられる)。
  • A社は総還元性向を高め手元流動性比率を引く抑える財務戦略をとっているが、これは、増配が株価によい影響をもたらすことへの期待(シグナリング効果)と、余剰資金を抑えて使途に関する株主との衝突を防ぐ(エージェンシーコストの削減)ことが目的と考えられる。
    シグナリング効果とエージェンシーコスト自体を説明しろという問にも見えるかも…。
  • 自社株買いを行うと自己資本が小さくなるのでROEは改善するが、負債比率も大きくなり財務的に不安定になりうるので株価にプラスに影響するとは限らない。
  • A社は新株予約権社債が権利行使されても期末発行済株式数が一定に保たれるよう金庫株で調整しているが、これは希薄化の回避が目的と考えられる。
  • 業績予想が妥当か指摘する問題: シェア拡大や利益率拡大に無理がないかみる。
第6問(債券ポートフォリオ戦略)

年限 t とスポットレート r が与えられているので、割引債価格 S とフォワードレート r1 を出しておきます。
修正デュレーション D とコンベクシティ Cv も出しておきます。
(フォワードレート r1 は、それぞれの割引債のいまから1年後までの収益率と一致。)
(t=17 のスポットレートは表にないので、t=18 のフォワードレートは与えられている数値で補充。)

> x$S <- 100/(1+x$r)^x$t
> x$r1 <- ifelse(x$t != 18, c(100, x$S[1:13]) / x$S - 1.0, NA)
> x$r1[12] <- 0.0569
> x$D <- x$t/(1+x$r)
> x$Cv <- x$t*(x$t+1)/(1+x$r)^2
> x
    t      r        S         r1          D         Cv
1   1 0.0300 97.08738 0.03000000  0.9708738   1.885192
2   2 0.0340 93.53172 0.03801553  1.9342360   5.611903
3   3 0.0370 89.67342 0.04302614  2.8929605  11.158960
4   4 0.0400 85.48042 0.04905217  3.8461538  18.491124
5   5 0.0420 81.40694 0.05003854  4.7984645  27.630314
6   6 0.0439 77.27635 0.05345209  5.7476770  38.541756
7   7 0.0458 73.09027 0.05727284  6.6934404  51.202451
8   8 0.0476 68.93441 0.06028705  7.6365025  65.605691
9   9 0.0488 65.12772 0.05844962  8.5812357  81.819562
10 10 0.0500 61.39133 0.06086197  9.5238095  99.773243
11 11 0.0509 57.91948 0.05994254 10.4672186 119.522907
12 18 0.0535 39.13617 0.05690000 17.0859041 308.146349
13 19 0.0536 37.08178 0.05540162 18.0334093 342.319842
14 20 0.0537 35.12856 0.05560180 18.9807346 378.281698
  • 10年国債と修正デュレーションが等しい2年国債と20年国債ポートフォリオを組成するとき、
    • 2年国債の組入比率は(単純に修正デュレーションを混ぜるウェイトと考えてよく)、
      > a <- (x$D[x$t==10] - x$D[x$t==20])/(x$D[x$t==2] - x$D[x$t==20])
      > a
      [1] 0.5547723
    • このポートフォリオの1年後までの収益率は、
      > a*x$r1[x$t==2] + (1-a)*x$r1[x$t==20]
      [1] 0.04584543
      となり、10年国債の1年後までの収益率 0.06086197 より低い。ので、ブレット型運用の方がよい。
  • ただし、バーベル型運用の方がコンベクシティが大きいので、(修正デュレーションが同じ場合)利回り曲線のパラレルシフトに対してはバーベル型の方が有利。
  • パラレルシフトの他に、利回り曲線のフラット化もバーベル型に有利にはたらく。
第7問(株式ポートフォリオ戦略)
  • パッシブ運用:
    • ベンチマークと同じ運用成果を再現することを目指し、可能な限りベンチマークと同じリスク・リターン特性をもつポートフォリオを構築、維持する運用方法。主観・予想を極力排除した形になる。
    • パッシブ運用を採用するのは、以下のような考え方に基づいているといえる。
      • 市場が効率的であるならば、時価総額加重型の市場ポートフォリオが、最も効率的なリスクとリターンをもつはずである。
      • ベンチマークとしてよく採用される市場インデックスを継続的にアウトパフォームするファンドはほとんど存在しないか、存在するとしても事前にをれを予測することが困難である。
    • アクティブ運用に比べコストを抑えられる利点もある。
      • 情報収集・分析・意思決定・売買執行を要するアクティブ運用に比べ、運用報酬は低くなる。
      • 運用報酬以外のコストとしては、スポンサー側にとっても商品の情報収集、意思決定、モニタリング、戦略を理解するためのコストも低くなる。
        リバランスが少なく、取引コストも抑えられる傾向にある、と考えたけど、そういう題意ではなかった。
    • パッシブ運用の手法:

内容ベンチマークとの乖離発生要因
完全再現法アクティブ・ウェイトをゼロに維持する。
ラッキング・エラーは最小になる。
リバランス頻度も最小になる。
ただし、現実的には困難。
リバランスに伴う取引コスト。
(運用資金流出入時、新規上場/上場廃止時)
層化抽出法ベンチマークのユニバースを段階的に
特徴分類する(各クラスをセルという)。
例.業種 → 時価総額 → PBR
セルごとに代表銘柄をセルの時価総額
応じて組み入れる。
分割の回数が少ない。
セル・リターンの不一致。
最適化法制約付きリスク最小化問題を解く。
銘柄間リターンの共分散が要る。
(マルチファクター・モデル
 などを利用するのが現実的。)
制約式で取引コストを加味できる。
流動性が低い銘柄の除外もできる。
意図的に課した制約。
モデルの精度。

第8問(企業年金の投資政策)

年金ALMに基づくと資産配分の決定がどう変わるかという話。

  • 退職給付債務と年金財政上の債務の割引率の違い:
    • 退職給付債務の割引率: 安全性の高い債券の市場利回り。
    • 年金財政上の債務の割引率: 個々の年金基金の保有資産の見込み運用利回り(予定利率)。
  • 年金債務のリスクの特徴:
    • 一般に年金債務のデュレーションは10年超と長く、金利変動リスクを伴い、標準偏差は高くなる。
    • 年金債務は主として市場の金利変動に伴って価値変動するので、債券との相関係数は大きい。
  • この年金基金の効用関数 U はサープラスのリターン  Z = R_A - k R_L L_0 / A_0 を用いて、
      \displaystyle U=E(Z)-\frac{1}{2}\gamma \sigma^2(Z)
    なので、式変形すると以下のようになるが、
      \displaystyle U=E \left( R_A - k R_L \frac{L_0}{A_0} \right)-\frac{1}{2}\gamma \sigma^2 \left( R_A - k R_L \frac{L_0}{A_0} \right)
        \displaystyle = E(R_A) - k \frac{L_0}{A_0} E(R_L) - \frac{1}{2}\gamma \left(\sigma^2 (R_A) + k^2 \frac{L_0^2}{A_0^2} \sigma^2 (R_L) - 2k \frac{L_0}{A_0} {\rm Cov}(R_A, R_L) \right)
    この年金債務の期待値  E(R_L) と分散  \sigma^2(R_L) は資産配分決定によらないのでこれ以外の部分の最大化を解けば最適資産配分が求まる。なので下記の  V の最大化問題になる。
      \displaystyle V = E(R_A) - \frac{1}{2}\gamma \left(\sigma^2 (R_A) - 2k \frac{L_0}{A_0} {\rm Cov}(R_A, R_L) \right)
  • 年金債務を勘案する(年金ALMを考慮する)場合とそうでない場合の資産配分の違いは:
    • 上式から明らかなように資産リターンと債務リターンの共分散の項  {\rm Cov}(R_A, R_L) が出てくる。
      = 債務との共分散が大きい方がうれしい(債務の増大時に資産も増大してほしいので当然)。
      • 年金債務比率  L_0/A_0 が高いほどこの傾向は強まる。
      • リスク回避度  \gamma が高いほどこの傾向は強まる。
第9問(ゲーム理論モラルハザード

Yさん=戦略CYさん=戦略D
Xさん=戦略A① 10, 10② 14, 8
Xさん=戦略B③ 6, 8④ 12, 12

  • ナッシュ均衡は①。
    • ①: Xさんに自分だけ戦略変更するメリットはない。Yさんに自分だけ戦略変更するメリットはない。
    • ②: Xさんに自分だけ戦略変更するメリットはない。Yさんには自分だけ戦略変更するメリットがある。
    • ③: Xさんには自分だけ戦略変更するメリットがある。Yさんには自分だけ戦略変更するメリットがある。
    • ④: Xさんには自分だけ戦略変更するメリットがある。Yさんに自分だけ戦略変更するメリットはない。
  • パレート最適は②、④。
    • ①: ④にパレート支配される(① → ④でXさんもYさんも利益が上昇する)。
    • ②: 他のどのセルにもパレート支配されない(XさんもYさんも利益が上昇するような他のセルはない)。
    • ③: ①、④にパレート支配される(③ → ①、④でXさんもYさんも利益が上昇する)。
    • ④: 他のどのセルにもパレート支配されない(XさんもYさんも利益が上昇するような他のセルはない)。
  • Xさんが先手だったら、均衡は④。
    • Xさんが戦略Aを取ると、Yさんは戦略Cをとり、Xさんの利益は10になる(①)。
    • Xさんが戦略Bを取ると、Yさんは戦略Dをとり、Xさんの利益は12になる(④)。
    • をふまえると、Xさんは戦略Bを選択し、Yさんは戦略Dをとる(④)。
  • モラルハザード逆選択
    • モラルハザード逆選択も情報の非対称性があるときに発生する。
    • モラルハザードは、情報がない側が、情報がある側を監督しきれない/選択を評価するのにじゅうぶんな専門知識がないために、情報がある側がずるをする(情報がない側の期待通りの行動を取らない)こと。
    • 逆選択は、情報がない側から財やサービスの本当の価値がわからず、「無知につけ込んでくるだろう」という悲観的な予想をするために、その悲観的な予想に見合った粗悪なものしか取引が成立しなくなり、粗悪なものが市場にはびこってしまうこと。
    • この問題は、モラルハザードに該当する。
  • 株主は経営者に努力してほしいが、経営者は努力した方が疲れるので私的利益が低くなってしまう。
    これを解決する簡単なアイデアは、経営者の報酬を株主の利益と連動させることが考えられる。
    • このアイデアの問題点としては、経営者の努力以外の要因が大きいとき、経営者の努力するインセンティブは期待ほど高まらない。経営者が「努力しても株主利益が達成されない可能性がある」と考えると、努力しない。経営者を過度のリスクにさらさないようにする必要がある。実際この通りのアイデアは株主に最適ではないらしい。