ジュン、行列式って何?
以下を参照してください。
話終わっちゃう!
ハヤトは、行列とは何かは大丈夫なんですよね?
行列っていうのは…数を並べたやつ?
実数を縦に 個、横に 個並べたものってことだな。それで?
僕たちは行列で色々な情報を表現することができます。例えば、何年ものと何年ものの国債の金利が同じ向きに変動しやすいかの情報や、ある SNS で誰と誰が密にやりとりしているかという情報を行列に表すことができます。また、量子力学のある形式では観測できる物理量を行列で表現します。このように何か情報を行列に表したら、次に僕たちはこう願うでしょう。
しかし、ふつう用意したままの行列の各成分はこれらの願いを叶えてくれません。そもそも行列ってそのままだと扱いづらいんですよね。掛け算の順序は交換できないし、累乗するのも苦労するし、その他色々計算が大変だし、だからなるべく情報を損なわずに変数の数を削りたいと思っても削り方を示唆してくれないし…。勝手に行列にしておいてめちゃくちゃ文句いうなよ!
ただ、行列であっても対角線上の成分を除いて他は全てゼロであるような行列=対角行列ならずっと取り扱いやすくなるんです。なので、できることなら目の前にある行列を対角行列にしたいんです。
え? でも勝手に対角成分以外をゼロに書き換えたらダメだろ。情報が変わっちゃう。
ふーん。でもさ、 はもう じゃないじゃん。対角行列になったのはよかったかもしれないけど、なんかもう とは別人じゃん。
どうやって を求めるのか、ということですね。 が対角行列になるような とはどんな行列か、いきなり全ての成分を考えようとするとわかりづらいので、 の一番左側の列ベクトル に着目してみましょう。 でなければなりませんよね。 は単位行列ですから、その一番左の列はこうならなければならないです。他方、 でなければならないはずです。対角行列 の一番左の列ですから。するとこの2つのベクトルは平行なので となり、この最左辺と最右辺に左から をかけると結局 となります。つまり は、行列 を左からかけたときに定数倍されるだけで向きが変わらないベクトルなんです。同じ議論が の全ての列のベクトルに対して成り立ちます。また、明記してきませんでしたが という表記からわかるように は逆行列をもつ行列(正則行列)なので、各列ベクトルは互いに線形独立でなければなりません(証明略)。まとめると、 行列 に対して が対角行列となるような とは、「行列 を左からかけたときに向きが変わらないような互いに線形独立なベクトルを 本並べたもの」であり、そのような が存在するための の条件はそのまま「行列 を左からかけたときに向きが変わらないような互いに線形独立なベクトルが 本あること」です。
へー、 はそういう行列だったのか…いやでも、その「行列 を左からかけたときに向きが変わらないようなベクトル」をどうやって求めるの?
を式変形すると となりますが、いま は他の列のベクトルと線形独立であるようなベクトルであってほしいので、 でなければなりません。いま に着目していましたが、後ろの についてみてみましょう。いま、 は、ゼロベクトルでないようなベクトル に左からかけるとゼロベクトルにしてしまうような行列でなければなりません。言い換えると、もし が「ゼロベクトルでないベクトルはゼロベクトルにしない」ような行列だったら、ほしい を選ぶことができないんですよね。
いってることはわかるけど…ゼロベクトルでないベクトルをゼロベクトルにするって、じゃあ結局 はどんな行列なの?
仮に に逆行列 が存在するとしましょう。これを の左からかけるとどうなります?
だな。あれでも、 じゃないとダメなんじゃなかった?
俺が解くの!? …まあ、 行列の場合は を の式で表して消せばいいのか。こうなるな。
分母がゼロの場合が場合分けされていないので不正解です。
えーそんなとこ!?
あーそういうことか。あ、わかった気がする。 が逆行列をもたないような を見つけるには、 の成分を上の分母に代入してそれがゼロになるような を見つければいいのか。…って考えるとなんかそうやって計算すれば って絶対見つかりそうじゃない? 見つからないときとかあんの?
…説明は割愛しますが は必ず見つかりますよ(※)。そして、 によってゼロベクトルにされてしまう も必ず求まります。どちらかというと問題なのは、「線形独立な が 本求まるか」という点の方ですね。…その話は一旦そこで止めておいて、ハヤトはいま 行列、 行列と逆行列を求めてみてどうでした? 行列のサイズがより大きくなった場合にも、逆行列の存在の有無を確かめられそうな知見が得られたでしょうか?
※ | 、つまり、行列 の固有値は複素数の範囲で必ず存在しますが、代数的に解けるかはまた別の話です。 は行列 の固有方程式といわれる 次方程式の解になりますが、5次以上の方程式になると代数的に解けない場合がありますので(雑記: 5次以上の方程式に解の公式が存在しない話 - クッキーの日記)。しかし、代数的に解けなくとも何らかの表現で特定することはできるでしょう。そもそも実用場面ではもっぱら数値的に求めることになるとは思います。 |
得られてねーよ!
俺の苦労なんだったの!?
いや、俺はこれ以上サイズの大きな行列には向き合っていきたくないんだけど。
タイトル回収すんのおせーよ!
行列式の定義からはじめたくなかったんですよね。自然な流れでどうしてこんな 形の行列式に僕たちは向き合わなければならないのかたどり着きたいじゃないですか。でもここから余因子展開をはじめるとなると記事の尺がちょっと。あ、上の行列式の表式の意味は参考文献 2. を参照してください。行列式がどのような意味をもつかも参考文献 2. に記述があります。参考文献 1. にはアニメーションによる直感的なすばらしい説明があります。参考文献 1. の中ほどの「3次の座標変換」というアニメーションに照らし合わせていうならば、 を対角化したいとき、 という行列の線形変換はこの赤い平行六面体がぺちゃんこにつぶれている=行列式がゼロ=逆行列をもたない状態でなければならないですね。